東京高等裁判所 昭和50年(ラ)724号 決定 1976年1月26日
抗告人
木内カネ
右代理人
菊池史憲
相手方
木内芳勝
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告人の本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方の仮差押執行取消申立を却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙「抗告の理由」に記載したとおりである。
一件記録によれば、抗告人は、相手方を債務者として東京地方裁判所に対して、昭和四五年一一月二日相手方所有の別紙目録記載不動産の仮差押命令の申立をなし、同裁判所は同年一一月一〇日、同庁昭和四五年(ヨ)第八四〇八号不動産仮差押申請事件として、債権者たる抗告人に金一二〇万円の保証を立てさせて右不動産を仮りに差押える旨の決定をなし、そのころ右決定が執行されたこと、右決定によれば、抗告人の申立てた請求債権八〇〇万円但し財産分与請求金額一、五〇〇万円の内金五〇〇万円および慰藉料一、〇〇〇万円の内金三〇〇万円の合計額を請求債権額とし、債務者が右債権額を供託したときは仮差押執行の停止又はその執行処分の取消を求めることができる旨定められていたこと、相手方は、右仮差押債務者として昭和五〇年一〇月二一日に、東京法務局に仮差押解放金額として金八〇〇万円を供託し、同日原裁判所に仮差押執行の取消申立をなし、同裁判所は同年一〇月二四日に、前記仮差押の執行を取り消す旨の決定(なお同年一一月一日更正決定)をなしたこと、の各事実を認めることができる。
右事実によれば、原裁判所は、相手方が仮差押決定に表示された解放金額を供託して仮差押執行の取消を申立てたものと認めてこれを認容し、その執行の取消を命じたものであることは明らかである。仮差押決定は、債権者の申立てにもとづき、その被保全請求債権の存否、保全の必要性等、請求及び仮差押の理由を審理し、保証を立てしめまたは立てさせないでなされるものであるから、この審理に際しては、請求についても、もつぱら債権者の申立てた請求債権を基礎とすべきことはもちろんであつて、請求債権が内金又は一部の請求であるときはその限度において審理すれば足り、それを超える債権全額の存否についてまで審理判断を及ぼすものでなく、したがつて仮差押決定において、仮差押執行の停止又はその執行処分の取消を得るために供託すべきものとして定められる解放金額も、また、請求債権額を基礎とされることは、なんら異とするに当らず、これを仮差押決定に表示された請求債権額をこえる債権全額と解しなければならない理由はなく、本件仮差押決定の記載に照しても、そのように解すべき余地はないから、原決定に何等の誤りもなく、抗告人の主張は独自の見解であつてこれを採用することはできない。
その他記録を精査しても原決定を取り消すべき違法は見出せないから、本件抗告は理由がない。
よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のように決定する。
(江尻美雄一 滝田薫 櫻井敏雄)
不動産目録《略》